back


「少年と海」


「ここは、水没した街。
もうずっと昔から、この街に住む人々は
水と生活を共にしてきました。」




「少年は、アパートの屋上で栽培した野菜を売って生活しています。
魚が捕れないこの街では、野菜は貴重な食料です。」






「子供たちが水遊びをしています。
しかし、少年が仲間に加わることは
ありませんでした。」






「ラビが、泳いでいた子供たちをしかります。
『この水は、人々の過去の
悪事によって呪われている。
だから、泳ぐなどとんでもない』 」









「少年はある日、
一人の少女と出会いました。」

「その少女は、いつまでも
水の中を覗き込むように
していたので、少年は
とても奇妙に思いました。」






「少女は、お腹を空かせてしました。
少年は、自分の売っている野菜を一つ、
少女にあげました。」






「少年と海」 その7

「『ありがとう・・・』
少女はそれを食べ終えると、
少年の横をすり抜けて海に入りました。
そして、そのままどこかへ
泳いでいってしまったのです。」






「そんなことがあってから、
二人はよく会うようになりました。」

「しかし、街にはそのことを
よく思わない人もいたのです。」






「平気で水の中に入っていく少女は、街の嫌われ者でした。
そして、その少女と仲良くしている少年も、
いつしか同じ扱いを受けるようになったのです。」

「もう誰も、彼の作った野菜を買いませんでした。
それどころか、大事な畑を荒らされることすらありました。」






「ある日、少女が乱暴をされているのを見つけた少年は、
乱暴をしていた男の子を、櫂で殴り倒してしまいました。」






「二人は屋根を伝って逃げました
後ろからは激昂した街の人々が追いかけてきます。」

「しかし、いつまでも逃げられるわけではありません。
ついに二人は、街外れの一角に追い込まれてしまいました。」






「ここから先は
果てしなく海が続いているだけです。」

「少年は、ここから飛び降りるぐらいなら
街の人に謝ったほうががいい
と思いました。」






「しかし、少女は海を恐れませんでした
海までは、誰も追いかけてきません。」
「少年も、少女の目を見て決心しました。」






「それから、二人が姿を現すことは
二度とありませんでした。」






「そして、不思議なことに
この事件以来、街には魚が戻ってきたそうです。」






back